2024年03月08日

循環器

僧帽弁閉鎖不全症

犬の僧帽弁閉鎖不全症は、心臓が収縮して血液を送り出すときに僧房弁(心臓の中の逆流防止装置)が完全に閉鎖せず、血液が逆流してしまう病気です。

中高齢の小型犬に多く発症し、日本ではチワワ、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル、トイ・プードル、ポメラニアン、ヨークシャー・テリア、ミニチュア・ダックスフントなどに好発します。雌よりも雄に多いという報告もあります。

症状

初期は無症状ですが、進行すると肺水腫などの命に関わる状態になります。

初期症状

・散歩の途中で座り込む
・寝ている時間が長くなる

初期症状は運動不耐性といって疲れやくくなったり、なんとなく元気がないように見えるなど、
飼い主様も気づきにくい症状であることが多いです。

また、病院で胸の音を聞いてもらった際に雑音があると指摘されることも多いです。

中程度の症状

・散歩に行きたがらない
・食欲が落ちる
・運動後や興奮すると咳をする

中程度になると咳など目に見える症状が出てきます。
年だから?風邪だから?と質問を受ける際もありますが、年齢とともにみられる症状ではありません。

重度の症状

・安静時にも咳が出る
・突然倒れる
・呼吸が早い
・呼吸困難

重度になると急死をしてしまうリスクがあります。
心臓がうまく機能しなくなることで、血管や肺に負担がかかり、「肺水腫」や「胸水」、「腹水」といって体に水分が漏れてしまう状態になります。
緊急的に対応が必要な場合が多いです。

進行の度合いはその子によって様々ですが、時間とともに進行してしまう可能性の高い病気です。
急に腱索という心臓の中の紐のような装置がきれてしまい、いきなり重度の症状が出てしまう子もいます。

診断

・心臓超音波検査
・胸部レントゲン検査
・血圧測定
・心電図検査
・血液検査(心臓病マーカー)

確定診断は心臓の超音波検査で実施します。
心機能や心拡大の度合いをその他検査を用いて評価します。

重症度

僧帽弁閉鎖不全症の病状の重症度はアメリカの獣医ない科学学会で作成されたACVIM分類で5段階に分けられています。

ステージ分類評価基準
A心疾患の発病リスクは高いが、現在は心臓の器質的異常なし
(キャバリア、チワワなど)
B1器質的に心疾患はあるが、うっ血性心不全徴候を発症したことはない。
左心拡大なし
B2器質的に心疾患はあるが、うっ血性心不全徴候を発症したことはない。
左心拡大あり
C過去・現在にうっ血性心不全徴候あり。
D標準的な治療に難治性の末期心不全。
重症度(ACVIM分類)

治療方法

内科的治療法と外科的治療法があります。

内科治療

内科的治療の目的は心臓の負荷を軽減すること、生活の質(QOL)の改善です。

一般的には強心薬や血管拡張薬、利尿剤などが使用されます。
心臓の収縮を補助することや血管を拡張することで心臓にかかる負担を軽減したり、心臓の保護をしたりします。
内服薬の投薬のタイミングはACVIM分類に基づいて行うのが一般的です。
現在ではStageB2の無症状の時期からピモベンダンという強心薬を投薬することで、心不全発症までの期間や心臓病で亡くなるまでの期間を延長できたとの報告があります。当院では研究結果に基づいた治療を実施しております。

外科治療

外科治療の目的は、完治を目指すことです。
心臓をできるだけ正常の状態に戻し、内服を減らしたり症状を緩和させることにあります。

内科治療に比べ手術費用が高額になることや高度な手術のため実施できる病院が限られてしまいます。
当院では循環器診療科で受診後、必要に応じてご案内をさせていただいております。

早期発見や早期治療で寿命が年単位で変わって行く病気です。
定期検診も実施し、できるだけ早く愛犬の異常に気づいてあげましょう。
歯周病などが原因であることも言われていますので、定期的な歯石除去の必要性も高くなってきています。


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